第2回:事業承継の計画と成功へのステップ

事業承継は、計画の立案・実行・フォローアップまで、長期的に進める必要がある重要なプロセスです。本章では、親族内承継、MBO、M&Aの各手法に応じたスケジュール例(5年計画、3年計画、1年計画)を紹介します。具体的な数値目標、運用例、タイムライン、フローチャート、チェックリストを活用し、成功のポイントやリスク対策を明確にしていきます。

 


1. 事業承継の全体フロー

事業承継は、以下の3つのフェーズに分けられます。


1.1 計画立案フェーズ

① 現状分析と課題の把握

  • 自社の財務状況・経営課題を分析し、改善点を明確にします。
  • 例:主要取引先との関係性、収益構造、後継者の候補状況を整理。

② 承継手法の決定

  • 親族内承継、MBO、M&Aの選択肢を比較し、最適な方法を決めます。
  • 例:税負担、資金調達、経営の安定性を考慮し、最も適した手法を選定。

③ 後継者の選定

  • 社内外の候補者を検討し、適正を評価します。
  • 6ヶ月ごとにリーダーシップ評価を実施し、評価スコア80点以上を目指します。
  • 【図1】「事業承継フローチャート」


1.2 実行フェーズ

① 法務・財務・税務の準備

  • 契約書の整備、株式移転の税制対策、事業承継税制の活用準備を進めます。

② 株式譲渡・買収交渉

  • 事業承継計画に基づき、最適なタイミングで株式譲渡を実施します。

③ 従業員や取引先との調整

  • 従業員向け説明会や取引先との会談を行い、新体制の理解を促します。
  • 株式譲渡に必要な書類を準備したか
  • 取引先への説明を完了したか
  • 従業員説明会を実施したか

【チェックリスト1】「実行フェーズの確認項目」

No. 確認項目 詳細 頻度/備考
1 法務・財務書類の整備 – 契約書、登記簿謄本、取引契約書の確認
– 過去3~5年分の財務諸表、予算・実績報告書、キャッシュフロー分析
初回準備時
2 税務対策の準備 – 事業承継税制の適用条件の確認
– 納税猶予制度利用に必要な書類の作成・提出準備
初回準備時および定期レビュー
3 株式譲渡の書類整備 – 株券、株主名簿、企業価値評価報告書の整備
– 株式譲渡に関する契約条件の確認
承継前の最終調整時
4 買収交渉の進捗管理 – 交渉状況の記録、進捗レビュー会議の実施
– 交渉での譲歩ポイントと守るべきポイントの整理
交渉フェーズ毎
5 従業員・取引先への説明会の実施 – 承継計画の概要、変更点、今後の経営戦略の説明
– 質疑応答やフィードバックの収集
承継前および承継完了直後
6 専門家との連携状況の確認 – 弁護士、会計士、税理士との定例ミーティング
– 専門家からのアドバイスの反映と改善策の検討
定期的(例:月次または四半期ごと)
7 進捗状況の記録とレビュー – 各フェーズの進捗状況の記録
– チェックリストに基づいたレビュー会議の開催
各フェーズ終了時


1.3 承継完了とアフターサポート

① 新体制の確立

  • 承継後、迅速に経営体制を整え、組織の安定化を図ります。

② 経営戦略の再構築

  • 売上成長率5〜10%向上を目指し、新しい経営方針を策定します。

③ フォローアップの実施

  • 従業員のモチベーション維持、取引先の継続的な信頼関係構築を進めます。
  • 承継後3ヶ月ごとに経営状況を確認
  • 従業員の満足度調査を実施
  • 主要取引先と定期面談を実施

【チェックリスト2】「アフターサポート項目」

No. アフターサポート項目 チェック内容 頻度/備考
1 経営状況の定期確認 – 売上、利益、キャッシュフロー等のレビュー
– KPIモニタリングシステムの稼働状況確認
承継後3ヶ月ごとのレビュー会議
2 従業員の満足度調査 – 従業員アンケートの実施
– 改善策の策定と実施状況の確認
半年ごと
3 主要取引先との連携強化 – 主要取引先との定期面談
– 契約更新や新たな取引条件の見直し
四半期ごと
4 新経営体制のパフォーマンスレビュー – 経営会議の開催頻度、議題、決定事項の実施状況
– 幹部のリーダーシップ評価(360度フィードバック等)
半年ごとの評価面談
5 財務指標のモニタリング – 定期的な財務諸表のレビュー
– 予算と実績の乖離確認と必要対策の検討
四半期ごと
6 リスク管理体制の見直し – 市場変動、法務リスク、内部統制の評価
– トラブル発生時の対応策と報告体制の確認
半年ごとの定期レビュー
7 後継者育成プログラムの進捗管理 – 後継者のスキルやリーダーシップの評価
– 必要な研修や外部セミナーへの参加状況の確認
半年ごとの評価面談
8 社内コミュニケーションの強化 – タウンホールミーティング、部署横断型ミーティングの開催
– 社内SNSやイントラネットによる情報共有状況の確認
月次または四半期ごと
9 メンタルヘルス・サポート体制の確認 – ストレスチェック、カウンセリングの実施
– 外部カウンセラーとの連携状況の確認
年2回以上、必要に応じて
10 定期的なフォローアップと改善策の実施 – 定期レビュー会議での課題抽出と改善策の実施状況の確認
– 次回レビューで改善効果の再評価
半年ごと


2. スケジュール事例

企業の規模や状況に応じて、5年計画、3年計画、1年計画を設定し、段階的に進めることが重要です。

2.1 5年計画:後継者育成と企業基盤の強化

主な施策
後継者の育成: OJTや外部研修を活用し、実践経験を積ませる
経営計画の見直し: 年間売上成長率5〜10%向上を目標に設定
持株比率の調整: 相続税・贈与税対策を考慮し、株式移転の手法を決定

具体例
ある製造業では、5年前から計画的に後継者を育成し、承継後1年で売上10%増加・従業員定着率95%以上を達成しました。


2.2 3年計画:株式譲渡と税制適用の準備

主な施策
株式の評価と移転方法の検討: 企業価値を再評価し、税負担を20%削減
事業承継税制の適用準備: 税理士と連携し、手続きの確認を進める
主要取引先・金融機関との関係強化: 契約更新率90%以上を目標

具体例
あるIT企業では、3年計画で事業承継税制を活用し、株式移転時の税負担を30%軽減しました。


2.3 1年計画:最終実行と関係者調整

主な施策

・従業員・取引先・金融機関への説明と合意形成

・株式移転・経営権の正式承継

・新経営体制の確立と最終調整

具体例
ある飲食業では、急遽1年以内に事業承継を試みた結果、主要取引先が離脱し、売上が15%減少しました。準備不足を防ぐためには、説明会や個別面談が不可欠です。


3. 事業承継計画の成功ポイント

専門家(税理士・弁護士・M&Aアドバイザー)との連携
進捗管理の徹底(チェックリスト・テンプレートの活用)
従業員・取引先との円滑なコミュニケーション


4. FAQ(よくある質問)

Q: 後継者の育成が進まない場合、どうすればよいですか?
進捗評価を3ヶ月ごとに実施し、必要に応じて育成計画を見直す
外部の専門家(経営コンサルタント)と連携し、育成を補強する

Q: 株式譲渡の遅延を防ぐ方法は?
早期に企業価値評価を実施し、税制適用の可否を確認する
専門家と連携し、承継手続きをスムーズに進める


5. まとめ

事業承継は計画立案・実行・フォローアップの3ステップで進める
5年・3年・1年のスケジュール例を参考に、自社に最適な計画を立てる
専門家と連携し、リスクを最小化する
従業員・取引先との信頼関係を重視し、円滑な承継を実現する

 

本章を参考に、計画的な事業承継を進めてください。