6.デジタル時代の事業承継と相続

アナログから最先端デジタル資産まで：変革する承継環境に備える新戦略

1. はじめに

ピーター・F・ドラッカーの著書『ポスト資本主義社会』（ダイヤモンド社、1993年）に見られる通り、企業価値の源泉は従来の有形資産から無形の知識・デジタル資産へとシフトしています。2025年現在、経済産業省（※『デジタルガバナンス・コード3.0』、2024年9月発行）やデジタル庁の新たなガイドラインが示すように、クラウドデータ、SNS、業務システム、顧客データ、そして生成AIのノウハウなど、デジタル資産の重要性はこれまでにないほど高まっています。

例えば、最新のOcean Tomo社『Intangible Asset Market Value Study 2020』では、S&P500企業における無形資産の割合が従来約90％から、最新の一部調査では95％を超えると報告されており（※ただし、調査機関によって数値にばらつきがあるため、正式な数値は各調査報告を参照してください）、日本企業においても同様の傾向が確認されています。

また、PwC『2024 Cloud and AI Business Survey』によれば、2024年以降、生成AIの急速な普及とその活用が企業競争力の大きな要因となっており、生成AIに関する資産管理・承継の方法論は急務となっています。

なお、デジタル資産は「見えにくく、引き継ぎにくい」という課題が依然として存在し、中小企業庁の『令和５年度中小企業実態調査報告書』（2024年2月公表）では、経営者の約80％以上がその不安を示しています（※筆者の実務経験および公的統計に基づく）。

デジタル資産の現代的定義

以下の表は、中小企業庁や最新の法制度、実務経験をもとに、従来の資産に加え、生成AI関連資産も取り入れた整理例です。

資産カテゴリ	主な例	承継上の論点	法的位置づけ
クラウド会計・ERP	freee、マネーフォワード、SAP	ID管理・権限移譲の透明性	契約上の地位移転（民法559条など）
業務マニュアル・ノウハウ	Google Workspace、Notion	アクセス権管理と知的財産保護	営業秘密・著作権（不正競争防止法）
顧客データベース	CRM、MAツール	個人情報保護とデータ活用の最適化	個人情報保護法の規定
SNS・HP・ドメイン	X（旧Twitter）、Instagram、公式HP	ブランド継承と運用ルールの整備	商標権、著作権（知的財産権）
電子契約・請求	クラウドサイン、最新決済ツール	証拠保全と権限管理のタイミング	電子署名法に基づく契約者特定
仮想通貨・NFT	ビットコイン、イーサリアム、ウォレット	相続財産の評価と安全な保管	相続税法上の「その他の財産」
生成AIシステム	ChatGPT、Claude、Gemini、社内AI	プロンプトやファインチューニングの権利管理	著作権法および契約法
AI学習データ	自社データ、プロンプトライブラリ	データセキュリティと知的価値の保全	営業秘密、著作権

2. 新たなリスクと課題

デジタル時代の事業承継では、有形資産に加えて新たなデジタル資産特有のリスクが存在します。特に、生成AI技術の進展に伴い、知識資産の管理方法や法的整合性、セキュリティ対策がさらに重要となっています。

デジタル相続における最新リスク

リスク内容	事例	潜在的影響	法的位置づけ
パスワード・認証管理の脆弱性	相続人がクラウドサービスへアクセスできず、重要データが消失	業務停止、信用失墜	各種契約規約および民法の原則
名義と契約者の混在	個人名義契約が承継時に自動終了し、サービスが停止	事業継続性の喪失	会社法や民法上の契約当事者変更
ブロックチェーン資産の非公開管理	仮想通貨・NFTの所在が家族内で共有されず、相続手続きで問題発生	資産価値の減損、相続税計算の混乱	相続税法、金融商品取引法
電子帳簿保存とAI活用ノウハウの未整備	システム管理情報の不整合により法令遵守が困難	法令違反リスク、税務調査への影響	電子帳簿保存法および関連業界ガイドライン
生成AI資産の消失	部門長の退職によりプロンプトライブラリが引継がれず、業務効率が低下	競争力低下、業務プロセスの停滞	著作権法および契約上の権利管理
API連携の断絶	AI連携システムのAPI管理情報が散逸し、全体システムが停止	自動化業務の停止、修正コストの増加	契約上の義務・権利関係

3. 承継改革の方向性

デジタル資産の承継問題を解決するためには、従来の「可視化」「制度化」「専門家連携」に加え、生成AI時代に対応するAI資産管理の観点が不可欠です。以下の３つの柱に基づき、計画的な取り組みが求められます。（※各項目は筆者の実務経験および公的資料に基づく）

1. 資産の可視化とデジタル棚卸し

目に見えにくいデジタル資産も、定期的な棚卸しと自動更新型台帳への組み込みが不可欠です。最新のクラウド管理ツールやAI解析を活用し、資産の現状を正確に把握します。

• 全クラウドサービス・契約の一覧作成
• 契約者（個人／法人）の明確な区分
• 生成AIアカウントやプロンプト資産の定期レビュー

2. 承継プロセスの制度化とデジタル自動化

承継業務をシステム化し、属人的な管理から組織的なプロセスへ移行します。AIを活用した自動化ツールにより、権限移譲や文書管理の手続きを効率化することが鍵です。

• デジタル資産台帳の自動更新システム導入
• パスワード・認証管理のクラウドツール利用
• 生成AI活用ノウハウの文書化とナレッジベースの整備

3. 専門家との連携とクロスドメイン対策

IT、法務、税務、AI技術など複数の専門知識を統合することで、最新の法改正や業界動向に即した承継対策を講じます。

• IT・セキュリティコンサルタントとの定期レビュー
• 税理士、弁護士、知財専門家との合同検討会
• AI専門コンサルタントによる生成AI資産の評価と承継計画策定

4. AI資産管理の新たな枠組み

生成AIに関するプロンプト、カスタムモデル、学習データの管理・承継方法を体系化し、最新のAI倫理ガイドラインや法令に基づいた運用ポリシーを策定します。

• 業務別プロンプトライブラリの整備と定期評価
• 生成AI利用ポリシーとセキュリティ基準の策定
• ファインチューニングモデルの権利関係と契約管理

4. 具体的解決策・戦略提案

4.1 デジタル資産台帳の整備と自動化

台帳作成の基本項目

最新のクラウド型システムを活用し、以下の項目を自動更新可能な台帳として管理します。（※出典例: 経済産業省『デジタルガバナンス・コード3.0』）

• サービス・資産名称および契約者情報（個人／法人の区分）
• アカウント、ID、及び安全な別管理場所での認証情報
• 契約更新日、支払い情報、及びバックアップ方法
• 生成AIツールおよびカスタマイズ情報

実務の進め方

1. クラウド型台帳システムの導入と四半期ごとの自動更新
2. 契約書の電子保管および複数権限管理の仕組みを整備
3. パスワード管理ツールの組織的運用と定期的なレビュー
4. 生成AIプロンプト・モデルのデジタルデータベース構築

おすすめツール例

• 『SafelyFiled 2.0』（最新デジタル資産管理プラットフォーム）
• 『Dashlane Business』／『1Password Business』（組織向けパスワード管理）
• 『PromptBase Enterprise』／『Notion AI Knowledge Hub』（プロンプト資産管理システム）

4.2 ITシステム・業務フローの再設計とAPI管理

システム全体の可視化

最新のクラウド環境に対応したシステム構成図と権限マップを作成し、API連携情報の安全管理を徹底します。（※参考: IPA『DX白書2024』）

• 全システム・サービスの連携図の作成
• データフローと保存場所の明示
• アクセス権限およびAPI管理情報の統合管理

実務ステップ

1. 業務プロセスとシステム連携図の自動生成ツール活用
2. クラウド管理者権限の分散および移譲計画の策定
3. 定期的なAPI連携情報のバックアップと検証

おすすめツール例

• 『Lucidchart』などの最新クラウド図作成ツール
• 『ITトラスト』（IT資産管理サービス）
• 『Notion』／『Zapier』／『GitHub』（業務マニュアル・API管理ツール）

4.3 知的財産・ブランドの保護とデジタルマーケティングの承継

ブランド資産の体系的整理

SNSアカウント、ドメイン、広告アカウント、生成AIコンテンツなどの権利関係を整理し、最新の法改正を踏まえた管理体制を整備します。（※内閣府知的財産戦略本部『知的財産推進計画2023』）

• 知的財産権リストの更新と権利者変更手続き
• SNS運用ガイドラインの最新化と複数管理体制
• ドメイン・SSL証明書の管理体制の強化

実務ステップ

1. 最新の知財評価と権利整理の実施
2. SNS・ウェブ管理の定期見直しと運用体制の刷新
3. 生成AI活用ガイドラインの整備と社内教育の実施

おすすめツール例

• 『J-PlatPat』（特許情報プラットフォーム）
• 『Buffer』／『Hootsuite』（SNSアカウント管理ツール）
• 『Google Workspace』／『PromptLayer』（デジタル資産共有管理ツール）

4.4 セキュリティとバックアップ体制の再構築

安全管理体制の文書化

情報セキュリティとバックアップは事業継続の要です。生成AI利用時のリスク管理も含め、最新のセキュリティポリシーを整備します。（※情報処理推進機構（IPA）『中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン』2023年版）

• セキュリティポリシーの定期更新と従業員教育
• データバックアップおよびリカバリ計画の自動テスト体制
• AI利用時のデータ漏洩防止と監査ログ管理

実務ステップ

1. セキュリティ教育プログラムの強化
2. バックアップシステムの自動テストと監視体制の構築
3. 生成AI利用ログの定期監査と改善策の実施

おすすめツール例

• 『Backblaze Business』／『Acronis Cyber Protect』（統合バックアップ・セキュリティツール）
• 『KnowBe4』（セキュリティ教育プラットフォーム）
• 『LLM Shield』／『AI Guardian』（AI利用監視ツール）

4.5 生成AI資産の管理と承継戦略

AI資産管理の強化

生成AIに関するツール、プロンプト、カスタムモデルの管理・承継体制を体系化し、最新のAI倫理ガイドライン（例: 内閣府『AI戦略2023』）に基づいた運用ポリシーを策定します。

• 利用中の生成AIツールおよび契約情報の一覧化
• プロンプトライブラリと最適化履歴のデータベース化
• カスタムモデル・ファインチューニング情報の権利管理

実務ステップ

1. 部門別AI活用テンプレートの整備と共有
2. 生成AI利用ノウハウのナレッジベース構築と定期更新
3. 組織アカウントへの統合と権限管理の強化

おすすめツール例

• 『PromptBase Enterprise』／『Notion AI Knowledge Hub』（企業向けプロンプト・AI資産管理）
• 『OpenAI Enterprise』／『Claude Workspace』（組織向けAIアカウント管理）
• 『AI Model Registry』（カスタムモデル管理ツール）

4.6 デジタル遺品対策の最新アプローチ

デジタル遺品整理計画

個人経営者や役員のデジタル遺品について、最新の管理サービスや手続きに基づいた整理計画を策定し、家族・相続人との事前合意を確保します。

• 個人用と事業用のデジタル資産の明確な区分
• 遺言や委任状へのデジタル資産の記載
• 最新のデジタル遺品管理サービスの活用

おすすめサービス例

• 『Everplans』および『Digital Legacy』（デジタル遺品管理・承継サービス）
• 『Yahoo!エンディング』（アカウント管理支援サービス）

5. 最新成功事例のご紹介

6. 実践へのステップと準備

デジタル資産承継は一朝一夕で達成できるものではなく、計画的かつ段階的なプロセスが必要です。以下は、最新の公的資料および筆者の実務経験に基づいたロードマップです。

時系列ロードマップ

専門家連携のポイント

IT、法務、税務、AI技術など各分野の専門家との連携は不可欠です。最新の法改正や業界動向を反映するため、以下のような連携体制を確立します。

専門家	相談タイミング	主な相談事項
IT・セキュリティコンサルタント	初期棚卸し・計画策定時	システム構成、セキュリティ対策、API管理
税理士	評価・税務計画時	デジタル資産の評価、税務取扱、電子帳簿保存
弁護士／知財専門家	契約・権利移転時	利用規約確認、知的財産権移転、契約適法性
司法書士／行政書士	権利書類作成・遺言策定時	デジタル資産を含む遺言書作成、相続手続き
AI専門コンサルタント	AI資産評価・運用計画時	プロンプトライブラリ、カスタムモデルの承継

7. まとめと重要ポイント

2025年に向けた新たな事業承継戦略として、以下のポイントが特に重要です。各施策は公的資料および筆者の実務経験に基づいており、最新の統計データや調査結果で裏付けられています。

生成AI時代の承継における3つの原則

8. 進捗確認チェックリスト

以下のチェックリストは、最新のデジタル資産承継プロジェクトの進捗確認に役立つ項目です。各項目について、定期的な見直しと具体的な次のステップを設定してください。（※出典: 筆者の実務経験および各公的資料）

9. 免責事項（2025年最新）

10. 参考文献・参考情報