第7回:事業承継における株式評価と税務対策

1. 株式評価の概要

1.1 株式評価の定義

株式評価とは、企業の株式価値を算出するプロセスを指します。
適正な評価を行うことで、相続税や贈与税の負担を正確に把握し、円滑な事業承継を実現することができます。

1.2 株式評価の重要性

税負担への影響
 評価額が適正でない場合、相続税や贈与税の額が過大または過小となり、後継者の財務負担に大きな影響を与えます。

企業存続の安定化
 適切な評価を行うことで、株主間のトラブルを防ぎ、企業の安定した承継を可能にします。

📌 【図1】株式評価の基本フロー(例)

データ収集
(情報整理)
評価手法選定
(手法検討)
数値算出
(評価実施)
結果検証
(再評価・報告)
税務対策の実施
(納税猶予適用)

2. 株式評価の方法

株式評価にはいくつかの手法があり、企業の業種や経営状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。
以下に、主な評価手法とその適用例を紹介します。

2.1 主な評価手法

📌 【表1】株式評価手法と適用例

評価手法 概要 適用例
純資産価額方式 企業の資産と負債を基に評価 製造業・中小企業
類似業種比準方式 同業種の上場企業の評価倍率を参考に算出 業界比較が可能な企業
DCF(割引キャッシュフロー)法 将来のキャッシュフローを現在価値に換算 将来収益が見込める企業
市場株価方式 上場企業の場合、市場価格を基準に評価 上場企業・準上場企業

📌 用語解説

DCF法(Discounted Cash Flow法)
 将来のキャッシュフローを適正な割引率で現在価値に換算する方法です。
類似業種比準方式
 同業種の市場指標(例:P/B倍率)を用いる方法で、業界平均との比較に適しています。


3. 株式評価に伴う税務リスク

適正な株式評価を行わない場合、さまざまな税務リスクが発生します。
以下に、主なリスクとその対策を紹介します。

3.1 主な税務リスク

税務調査による評価見直し
 税務署が独自に評価を行い、申告した評価額と乖離がある場合、再評価により納税額が増加する可能性があります。
📌 具体例:「事前評価が市場平均より20%低く設定されていたため、税務調査で再評価され、追加で相続税が発生した企業があります。」

贈与税・相続税の過大課税
 不適切な評価により、企業価値が実際より高く算出されると、後継者の税負担が増加します。
📌 数値例:「評価額が30%高くなると、相続税負担も30%増加し、追加で数千万円の納税義務が発生する可能性があります。」

株式分散による経営権の弱体化
 相続や贈与による株式の分散は、経営権を弱体化させるリスクがあります。
📌 実例:「株式が複数の相続人に分散され、意思決定のスピードが低下し、企業の方向性が不明瞭になったケースがあります。」

📌 【チェックリスト2】税務リスク管理ポイント

No. 税務リスク管理ポイント 詳細説明 備考
1 過去3年分の財務データ整理 ・最新の財務諸表、税務申告書、キャッシュフロー計画を整理し、評価の基礎データとする。 正確なデータ収集が必須
2 複数評価手法の併用 ・DCF法、類似業種比準方式、純資産価額方式など、複数の評価手法を併用し、リスク分散を図る。 評価結果の乖離を検証
3 税務調査リスクの事前対策 ・過去の税務調査事例を参考に、再評価リスクを予測し、税理士と事前に対策を協議する。 専門家との連携が重要
4 最新の税制改正情報の確認 ・国税庁や各都道府県の税務局の最新情報を定期的に確認し、制度改正に即応できる体制を整える。 更新頻度を定める
5 税務申告書類の正確な作成 ・税務申告書類の作成において、記載内容や計算方法の正確性を徹底する。 ミス防止策の導入が必要
6 定期的な税務レビューと改善策 ・定期的な内部監査や税務レビューを実施し、申告内容や対策の有効性を評価する。 改善点を速やかに反映

4. 株式評価における対策

4.1 専門家との連携

対策内容
 税理士やM&Aアドバイザーと連携し、複数の評価手法を組み合わせた適正な株価評価を実施します。
📌 実務ポイント:「評価書作成前に、過去の税務調査事例を参考にリスク要因を確認すると効果的です。」

4.2 持株会社の設立

対策内容
 持株会社を設立することで、経営権を維持しながら株式を承継できます。
📌 メリット:「持株会社を活用することで、経営権の安定と相続税の負担軽減が期待できます。」

4.3 生前贈与の活用

対策内容
 計画的に生前贈与を実施し、相続税負担を分散させます。
📌 実例:「年間110万円の基礎控除を活用し、複数年に分けて贈与を行うことで、税負担を軽減する方法があります。」

4.4 事業承継税制の活用

対策内容
 事業承継税制の特例を活用し、相続税・贈与税の負担を軽減します。
📌 実務ポイント:「税務署と事前相談を行い、最新の適用条件を確認しておくことが重要です。」

📌 【図2】株式評価から税務対策までのフローチャート

データ収集
(財務情報の整理)
評価手法の選定
(DCF法、類似業種比準方式など)
株式評価の実施
(数値算出)
結果の検証
(再評価・確認)
税務対策の実施
(納税猶予等の適用)

5. 株式評価の成功事例と失敗事例

5.1 成功事例:製造業の事業承継

📌 事例概要
 中規模製造業(従業員50名、年間売上30億円)では、税理士と連携し、類似業種比準方式とDCF法を併用して正確な株式評価を実施しました。

📌 成果
事業承継税制の活用により、相続税負担が70~80%軽減
後継者の財務負担が削減され、企業の安定経営が継続


5.2 失敗事例:小売業における評価ミス

📌 事例概要
 小規模小売業(従業員10名、年間売上5億円)では、純資産価額方式のみを使用したため、市場価値より30%高い評価額が算出されました。

📌 リスク発生
税務調査で再評価され、相続税が大幅に増加
後継者が税負担に対応できず、一部株式を売却

📌 教訓
複数の評価手法を併用し、専門家と連携することが重要


6. まとめ

株式評価の重要性:相続税・贈与税の負担を適正化し、後継者の財務負担を軽減
適切な評価手法の選択:純資産価額方式・類似業種比準方式・DCF法を状況に応じて組み合わせる
税務リスクの回避:税務調査リスクを考慮し、適正な評価を行う

📌 本記事を参考に、適正な株式評価を実施し、円滑な事業承継を進めてください。